親から相続した土地や建物。今後、自分がリフォームして住んだり家を建て替えたりしない、賃貸などで運用をする予定もない場合、管理の手間や維持費や固定資産税等がかかることを考えると売却してしまうのも一つの方法です。

相続した不動産を売却する前に

先ずは、相続した家屋を空家にしたまま持っているときに想定される危険性やリスクについて知っておきましょう。

相続後の不動産を放置する危険性

人が住まなくなった家は想像以上のスピードで劣化していきます。家が劣化するということは他人に迷惑をかける可能性がでてきます。
例えば、屋根瓦や外壁が剥がれ落ちて通行人にケガをさせたり、また、庭には雑草が生い茂るため、近所からクレームがこないよう定期的に除草作業が必要になったりもします。
管理されていない状態にしていると、不法投棄場所にされてしまったり、犯罪につかわれるなどのケースもあります。

損害賠償請求を請求される危険性

老朽化した家屋の屋根瓦や外壁が剥がれ落ちて、万が一通行人にケガをさせたり近隣の車に傷をつけたりしたら、家屋所有者はその人に対して損害賠償をしなければなりません。

行政執行を受けるリスク

これまで、空家が劣化し利用できないほどの状態になっていても所有者が解体しないければ、そのまま放置されることがほとんどでした。しかし空き家対策特別措置法が施行されてからは、行政代執行による強制的な解体ができるようになりました。そのまま放置しておくと危険な空家がある場合、まずは行政から所有者に対して、解体するなり維持管理するなり適切な状態にするように要請があります。それに従わない場合、勧告を受け、固定資産税等の減税特例の適用がなくなった上、さらに行政代執行により強制的に解体されその費用を請求されます。

税金のリスク

土地に住宅用家屋がある場合、土地の固定資産税は1/6、土地計画税は1/3になる減税措置が適応されています(小規模住宅用地の場合)。しかし、家屋が危険な状態になっていると「特定空き家」に認定され、これらの減税措置が受けられなくなります。家屋が危険な状態という言葉をどう捉えるかは行政の判断次第ですので、所有者が大丈夫だと思っても、周辺の住人の苦情を考慮して、「特定空き家」に認定されてしまう可能性があります。

相続した不動産の売却手順

ここでは不動産を相続し、相続した不動産を売却する手順と、売却後の確定申告・納税までをお伝えします。

遺産分割協議書の作成

遺産相続が起こったとき、相続人が一人ならその人がすべての遺産を相続しますが、相続人が複数いたら、誰がどの遺産を相続するのかを決めなければなりません。そこで、相続人全員が集まって遺産をどのように分けるかを話合います。全員が合意できたら、どのような内容で合意したのかが明らかにしておかないと後でトラブルになるおそれがあります。そこで、作成するのが遺産分割協議書です。
*遺言によって全ての遺産の相続人や受遺者が指定されていた場合は、その内容の通りに相続されるので、法定相続人が話し合って遺産分割協議をする必要がありません。遺産分割協議書は不要になります。

相続登記の申請

相続登記が必要な理由は様々ありますが、不動産を売却することだけに関して簡単に言えば、その不動産所有者(名義人)である売主がいないので、売買契約ができない状況にあるということです(亡くなった方の遺産を相続人や第三者が自己判断で売却することはできません)。なので不動産の名義を亡くなった方から相続人へ変更し、その相続人が売主になる必要があります。そのため不動産所有権などを取りあつかう機関である法務局へ名義変更の登記申請を行います。申請後1週間~2週間で申請した通りに登記がなされ名義変更完了し、不動産を売却できるようになります。
*法務局には登記手続きの相談受付窓口があり、相続登記のやり方を聞くこともできます。しかし法務局でやり方を聞いても、自分で戸籍を集めたり、遺産分割協議書を作成したりするのは、とても大変です。専門家である司法書士に相談することをお勧めします。

不動産仲介業者に依頼

家は個人でも売ることは可能ですが、やはり買主を見つけるのがむずかしいものです。その点、不動産会社に依頼するとチラシ広告やインターネット等を利用した幅広い販売活動をしてもらえます。販売活動に加えて、その不動産にかかる法律上の権利や規制、又インフラ状態や近隣関係(特に境界のトラブル)にいたるまで調査・確認をします。その調査・確認基づいた重要事項説明書や売買契約書類を作成して買主に説明しますので、安心して引き渡しできます。個人でこれらをすべて行うと後々トラブルが発生した場合、損害を被ることにもなりかねません。その他に登記の手続き、税金のことなど家の売却では専門知識が必要なことも多いため、そのつど的確なアドバイスがもらえる不動産会社へ相談し依頼することをお勧めします。

不動産の売却

不動産査定書を基に売主に売却価格を決めて頂きます。売却価格が決まると次に媒介契約を売主と不動産会社との間で行います。この媒介契約とは、不動産会社へ販売活動を依頼するもので、その契約内容は販売活動報告についてや売買契約成立した時に支払う不動産会社への報酬、禁止事項などの取り決めを行います(不動産会社は媒介契約をしていなければ販売活動してはいけないと法律で決められています)。
媒介契約の後、販売活動を行い買主を探していきます。条件が合う買主が現れたら売主へ紹介します。売主と買主の諸条件が合うと売買契約を締結します。
契約締結後、その契約書に記載されている決済日(物件を引渡日して売買代金を受けとる日)に向けて引渡しの準備を進めていきます。例えば土地の境界を確定させたり、更地にして引き渡すことが条件であれば家屋の解体など行います。
決済日に買主から売却代金を頂き、その日に所有権を売主から買主へ移転させて(司法書士に依頼して移転させます)売買取引完了となります。

確定申告・納税

個人が不動産を売却した翌年に確定申告が必要になる場合は売却益が発生した時です。売却益とは、売却代金から取得費や諸経費などを差し引いて、売却代金がプラスになった時のことを言います。売却益は「課税譲渡所得」として区分され、売却益に応じた「譲渡所得税」を納税する必要があります。特例で、居住用(所有者が住んでいた)不動産を売却した場合、相続により空家になった不動産を相続人が売却し適用要件を満たした場合は、譲渡所得から3,000万円を控除することができます(売却益が3,000万以内なら非課税)。

不動産の売却時にかかる費用

不動産を売却するときにかかる費用は、印紙税や仲介手数料、登記費用、測量費といった、以下のような費用があります。

印紙税

売買契約書に課税さる税金のことで、貼る印紙の金額(印紙税額)は、契約書の記載金額、つまり物件の売買価格によって決められています。

100万円以下の契約金額 1,000円(軽減期間 500円)
500万円以下の契約金額 2,000円(軽減期間 1,000円)
1千万円以下の契約金額 10,000円(軽減期間 5,000円)
5千万円以下の契約金額 20,000円(軽減期間 10,000円)
1億円以下の契約金額 60,000円(軽減期間 30,000円)
5億円以下の契約金額 100,000円(軽減期間 60,000円)

定められた金額の印紙を貼って消印(印鑑などによる割印のこと)することで納税したとみなされます。

仲介手数料とその消費税

売却を依頼した不動産会社に支払うのが仲介手数料。媒介契約を結んだときではなく、売却が成立したときに成功報酬として支払うもの。
仲介手数料は売買価格の3%+6万円+消費税が上限と法律で決められています(価格が400万以上のときの報酬例)。

登記費用

住所変更登記や抵当権抹消などの費用で、司法書士へ支払う費用。
登記した時から引越しをしていた場合、現住所に登記を変更しなければ所有権を移転できません。住所変更登記が必要になります。費用目安は10,000円~15,000円。
抵当権が設定されている場合は、抵当権を抹消し、制限がかかっていない状態にして所有権を移転させます。抹消登記費用目安は15,000円。

測量費用

売主は、買主に対して境界の明示をしなければいけません。土地引渡し時に誤った境界を買主に伝えたことで近隣と境界トラブルになり、後の賠償責任問題にならないように土地家屋調査士に依頼して、境界に問題がない状態にして引渡しをします。その費用目安は45万円~60万円です(土地筆の個数や面積形等で金額が変わります)。

その他解体費や廃棄物処分費

家屋が古い場合、更地にしてから買主に引き渡しをすることがよくあります(場合によっては買主が購入後に解体することもあります)。
床面積が120㎡前後の木造2階建て戸建解体費目安は100万円位です(工事作業環境や外溝類の状態によって変わります)
家屋を引き渡す場合、屋内のものをかたずけて引渡しをします(場合によっては買主が処分することもあります)。
整理費用目安はものの内容や量により変わります。

書類取得費

相続時には戸籍(亡くなった方が産まれてから亡くなるまでの戸籍)、不動産売却時には印鑑証明書、場合によっては住民票が必要になります。
戸籍はその方によって取得する枚数がことなりますので決まった金額はだすことができませんが、金額が少ない方では1,000円~1,500円、多い方で3,000円~5,000円が目安です。

まとめ

空家を放置しておくと、税金のリスク、管理のリスク、行政代執行のリスクがあります。これらの費用が重なれば不動産の価格以上に出費がかさむこともあるかもしれません。
空家の対策としては、「売る」「貸す」「維持管理だけしておく」のいずれかのことが選択できます。どれにするか迷うのであれば、売ってしまうことがオススメです。将来になればなるほど、住宅は老朽化して価値が減少し、さらに少子高齢化の日本では需要そのものが減少して相場価格が落ちる可能性があるからです。ただ社会問題として需要のない地域の空家については、タダでも引き取り手がつかないということもあるようですので、対策を講じるならできる限り早い段階から計画的に実施することがより重要となります。
将来的に実家に戻って住む予定がない人は、実家がやがて空家になることがわかっているのですから、事前に実家の不動産価値について不動産会社に聞いて確認しておくと良いでしょう。